営業という機能を分業化する。
営業研修などで営業マン個々の能力を伸ばして戦力化するという考え方がある一方で、分業化して能力に依存しない仕組みを構築したいというニーズもある。個人の営業力を中心としてきた企業が、どうすれば分業型の営業に移行できるだろうか。

営業の分業化とは

営業の分業化とは何か。これは一人で対応していた業務をプロセス単位で分割し、プロセス毎の担当者で対応する営業のスタイルになる。営業マンではなく営業チームとしてパフォーマンスを最大化する取り組みが営業の分業化である。営業は能力にバラツキがで易い職種であり、同じパフォーマンスを発揮できる人材を揃えることは難しい。同質の人材を数多く採用できれば良いのだが、能力差は確実に出てきてしまう。

報酬制度を改善したり、スキルアップのための研修を行い、その能力のバラツキを是正を試みるが、全員の能力を等しく底上げするというのは限界がある。そこで営業を分業化するという考え方が出てくる。全方位型の営業を育成するのではなく、複数の人材で優秀な営業マンと同じパフォーマンスを出すという考え方である。普通の人材で優秀な営業の役割を担っていくという考え方になるため、優秀な人材を常に採用し続けなければいけない、という採用のハードルは下げることができる。

ただし営業の分業化にはメリット・デメリットが存在する。また営業の分業化が必要かどうかも検討が必要になる。能力差はあっても凄腕の営業マンが引っ張る個人型営業の突破力が必要なケースもある。新規事業など、見込み顧客も少なく市場を開拓する場合は、こうした営業組織が求められる。

一方で、見込み顧客も増え、成約率を上がり成長フェーズに入ったタイミングでは、能力にあまり依存しない分業型の営業が必要になる。ちなみに、営業の分業化のメリット、デメリットを少し整理してみる。

【メリット】
・担当する業務範囲が限定されるので短期間で習熟し易い
 (結果として採用のハードルが下がる)
・組織としての拡張性が高く、顧客増への組織的な対応がし易い

【デメリット】
・一人で対応していた業務を複数人で行うため効率が落ちる
 (一時的には人数増のため収益性も落ちる)
・プロセス毎の情報伝達などでミスが発生し易くなる

営業を分業化するための方法

ここからは営業の分業化の進め方を整理してみよう。

・営業フェーズを定義する
・プロセス単位で必要なスキルやツールを棚卸しする
・スキルセットと難易度に応じて役割を決める

まずは営業フェーズを定義する。
営業プロセスよりも少し大きな枠組みで、営業をフェーズに分けていく。最初から細かなプロセスに落とし込むと、顧客や商品特性によって共通したプロセスを抽出するのが難しくなるケースがある。大まかな流れを先に定義し、その後にイレギュラーな業務も含めてプロセスを洗い出していくことで、早くに構造化できる。

・案件発生フェーズ:顧客との信頼関係を作る
・情報収集フェーズ:受注に必要な情報を集める
・提案、見積もりフェーズ:提案・見積もりを行う
・受注後フェーズ:受注後の営業処理を行う

様々な観点はあると思うが、大きく上記4つのフェーズに分解してみる。
営業としては案件を発生させるための動きからスタートする。顧客との信頼関係を築き、相談をして貰える間柄になることなどがこのフェーズになる。そのために一定の頻度で訪問する。有益な情報を提供する。まだまだ仕事にならない小さなお困り事に対応するなど、そのフェーズに必要となるプロセスやアクションがある。

フェーズ毎のアクションを棚卸しする

大きくフェーズに分けたら、そのフェーズに必要となるプロセスやアクションを棚卸ししていく。ここは細かく抽出し、そのフェーズのために必要となる行動を明らかにしていく。情報収集フェーズでは、競合はどこか?予算は?いつからスタートする案件なのか?など、成約に向けて必要な情報を引き出す業務になるが、そのためには、例えば先方のキーマンと会食をして情報を引き出すなど、情報収集フェーズにおける特有のアクションがある。そうした細かなことも洗い出しておく。

ある程度の棚卸しが終わったら、次にフェーズごとにそのアクションを精査していく。定番的に必要なアクションなのか。個別案件におけるイレギィラー的なアクションなのか。また、そのアクションの重要度やタイミングなども整理しておく。可能であれば、そのアクションを時系列に並べて整理することをお勧めする。

アクション毎のスキルとツールを整理する

次にそのアクションに必要なスキルやツールを棚卸しする。例えば、案件が発生した後に顧客の課題をヒアリングするというアクションがあったとする。ここでの肝は「ヒアリング能力」になる。ただし、このヒアリング能力は個人によってバラツキが発生し易い典型である。そのバラツキを抑えるために、「ヒアリングシート」の様なツールが必要かもしれない。

ここでの整理のポイントは、そのアクションに必要なスキルを洗い出すと同時に、それがバラツキの要因になるのであれば、普通の人材でも対応できる様にツールなどを検討することである。今は無くても必要になるツールを明確にし、その作成も同時に行っていく。

ただし、そうやって整理をしても、どこまでも個人の能力に依存するアクションというのは存在する。それを無理にツールにしても成果は出ない。そこでスキルセットの難易度や個人の能力への依存度についても整理しておく。能力依存のアクションについては、それが例えばプレゼンの様に専業領域として特化できるものなのか。それとも会食での情報獲得の様に、場数や役職に応じて習得できるものなのかを明確にしておく。プレゼンやデモの様に個々人が持つ能力で伝わり方が変わるような能力は、それを専業化して、それを得意とするスペシャリストを集めていく。

役割を決めていく

営業がフェーズに分かれ、必要なアクションとそのためのスキルセット。そしてそのスキル習得に対する難易度や個人への依存度が整理できたら、具体的な人材像を持って役割を決めていく。例えば、受注後フェーズで社内での受注処理だったり、提案・見積もりフェースにおける見積書作成の様な難易度が低く能力に依存しないアクションは、年次が浅い営業マンをアサインする。情報収集フェーズの課題ヒアリングは一定の経験を積んだ営業マンに役割を与えるなど、役割を決定していく。

この役割分担を行うことで、営業としてのキャリアプランも整理されていく。例えば、営業アシスタントとしてスタートし、その後ヒアリングで課題抽出から提案、クロージングができる営業になる。最終的には信頼関係のある顧客から案件情報を入手したり、案件に対する重要情報を収集ができる役職者へと昇格する。そんなイメージで整理していく。

営業の分業化を行う際に注意する点がある。それはどの役割の人も常に全体を把握できる様にしておく仕組みを作っておくことである。一つの案件を成約するまでに、様々な人が関わることになる。担当の役割があると、そこだけの最適化を考えてしまい、結果としてそれが全体で考えると効率を悪化させる原因になっていたというケースもある。全てのフェーズに何らかの形で関わる機会を持ち、その上で自分の役割を全うしていく。一番は案件全体の状況を確認する進捗ミーティングなどで、自分の役割がどう影響を与えるのかを知って貰う機会を作ることをお勧めする。

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