営業マンではなく営業チームを支援する。
お付き合い先の会社の営業改善にご協力する際に、特に気を付けていることがこの観点である。営業は特に個人主義で一匹狼的な要素が強くなる。中小企業の営業の現場では、この色合いがより強くなる。
営業の能力がバラつく3つの共通点
営業チームが伸び悩んでいる理由の一つとして、営業マンの能力のバラツキが大きいということがある。営業成績にバラツキのある営業マンには特徴があると考えている。それは数字に関する感覚である。営業にとって、自分のノルマで数字は切っても切れない間柄である。恐らく数字のミッションを持っていない営業マンというのは、ほとんどいないのではないだろうか。
ただ、この数字に対する捉え方にバラツキがある。この数字に対する感覚の違いが結果の違いになっていると考えている。営業成績にバラツキがある営業マンの数字に対する共通する特徴は3つある。
・数字を覚えていない
・数字と行動をリンクして考えられない
・数字から発想できない
営業には数値目標がある。通常はそれに向けて日々の営業活動を行っていくはずなのだが、目の前の案件への意識はあるが、数字への意識が弱いケースが多い。営業会議で数字を見る程度で、成績が未達の営業マンほど数字を覚えていない。
また、数字と行動がリンクしていない。例えば、ある商品に対する年間の販売ノルマがあったとしよう。仮に年間1000万円が目標とする。こうした数字が渡されたとしたらどう考えるだろうか?
・商談あたりの平均単価は?
・平均的な受注率は?
・平均的な案件発生率は?
・平均的な商談期間は?
・どんな顧客であれば成約し易いのか?
例えば、平均単価が50万円としよう。すると、1000万円➗50万円で年間で20件の成約が必要だと分かる。受注率が30%だとしよう。割り戻すと66件の案件が必要だと分かる。案件発生率が30%だとすると、220件程度のリストが無ければ20件の成約ができないと見えてくる。そして商談期間。仮に2ヶ月だとすると、案件発生自体は年度末の2ヶ月前までに終わっていないといけない。すると、10ヶ月で220件へのリストアタックが終了している必要がある。そして成約し易い顧客。顧客属性を把握した上で、既存リストを確認し、該当する顧客がどの程度存在しているかを把握する事で、行動の優先順位が決まってくる。
こうした数字から行動へ落とし込み、現場を把握した上で、営業活動に入っていくという数字と行動のリンクを全く行わずに活動している営業マンは意外と多い。
数字から発想するというのは、例えば、先の目標1000万円に対して、半期の段階で500万円という実績だったとしよう。残り500万円に対して、残された期間は商談期間の2ヶ月を勘案すると、4ヶ月しかない。それまでの活動よりも圧倒的に活動量を増やすだけではなく、もっと効果的な方法を考える必要がある。すでに導入を決めたお客様からの紹介を誘導できないか。他部署の顧客にも展開の幅を広げられないか。あらゆる社内のリソースを駆使して、目標を達成するアイディアを考えていく。こうした新しいアイディアを生み出す事も、本来は数字があるからできることなのだが、成績が伸びない営業マンは”とにかく頑張る”という精神論だけで、同じ行動を繰り返してしまう。
営業マンではなくチームにフォーカスする
数字をノルマとして、それを必達して当たり前のプレッシャーとして活用するという考え方は、もう古いかもしれない。営業のインセンティブで個々人のテンションを刺激し続けるという方法は、一部のトップセールスマンにとってはモチベーションになるが、その他大勢の力にはならない。むしろ、勝ち負けがはっきりとしてしまい、営業チームとして活性化することには繋がらない。
そこで数字を管理して営業マン個々人を底上げしたり、営業マンを数字で縛るという発想から抜け出すことをお勧めしたい。私は立場上、外部の人間として参画するので、いかに営業マンの力を結集して数字を達成して貰うかが大切になる。そうなると、営業マン個人のパフォーマンスに依存し、個々人の営業力を底上げするという考え方では、安定した結果を出し続けるのは難しいと感じていた。
営業マン個人から営業チームとしての活動をサポートするという発想に変えるためには、どうすればよいのだろうか。私は営業会議という場でファシリテータ的な役割として進行役を務める様にしている。アドバイザー的な立場として参加するのではなく、会議自体を進める役割である。結果として、その方法が私にとっては適していたという事だが、私なりに営業をチームとしてまとめていくためのポイントを整理してみる。
営業会議はこのテーマで行う
・数字はチームの目標を共有する
・案件別の状況は確認するが、営業マン別の状況は確認しない
・営業チームとしての状況や課題、その解決法を考える
・営業チームとしての行動計画に落とし込む
数字はチームの目標以外は共有しない。個人別の目標達成などは特に触れずに、チーム全体の数字を全員で意識して貰う。個人がオーバーパーフォーマンスをしていても、チームが未達であれば会社としては未達という結果になる。個人の優劣ではなくチームとしてのパフォーマンスが重要だと意識をして貰うために、チームの目標の進捗だけを共有している。
個別の状況については、案件状況の確認はするが、個人別の進捗は確認しない。営業が個人の達成目標でインセンティブが変わることは、個々の営業が理解しているはずである。営業として優先すべきことが、自分のノルマよりもチームとしての目標達成だと認識を改めて貰うためにも、個人の進捗には触れない。
チームとしての成績が未達である場合、全員でチームの数字達成のために何ができるかを考えて貰う。先の例の様に”数字と行動のリンク”の様な考え方ができる営業マンとできない営業マンには能力的な差がある。その能力差を個人のスキルアップで補うのではなく、それをチームの課題として考え、答えを出していく。個人任せにしていては絶対に辿り着けなかった解決策が生まれ、結果として改善行動がスピーディーになっていく。営業マン個々の能力差を埋めるのではなく、個人の責任からチームとして解決する課題することが大切になる。
そして行動計画もその場で落とし込む。解決の方向性が見えても、それを行動計画にまで落とし込めない営業マンは多い。日常の営業活動があるため、どうしても新しい活動は後回しにしてしまう。個々人が抱えている案件の優先度を個人に判断させるのではなく、チームのミッションとして考えて貰う。すると、その行動を優先して貰うために、その営業が抱えている案件を他の営業マンがフォローしたり、その活動自体も協力してくれたりと、計画の実行に向けた具体的な協力体制が出来上がる。
結果として、数字と行動がリンクした営業活動が全員で認識され、その活動に対する計画やKPI設定までができ、次月以降はその行動に対する進捗確認を行う事で課題が解決していく。営業チームとしての課題が解消され、チームとしての数値結果も改善されていく。
営業マンの能力には差がある。私の経験上、それを研修などのスキルアップだけで補うのは限界がある。厳しく個人を管理したとしても、それは能力の差であるだけに難しい。そこで個人の問題として切り捨てるのではなく、チームの課題として捉えて全員で解決していく。営業会議で焦点を当てるべきポイントを変えるだけで、全員の意識は変化していく。ポイントは、営業会議という公式の場で決めて推進していくこと。一度試してみて欲しい。