好きなのか?得意なのか?
よく耳にする言葉に、”好きを仕事に”がある。好き=情熱を傾けられること という図式となり、熱中できる事が仕事になると人生が豊かになるという考え方である。これだけ聞くと確かに、自分が好きで熱中できることで経営ができたら幸せだと感じる経営者もいるかもしれない。
”好き”と”得意”の違い
「好きなことより得意なことを」 オイシックス高島氏の生存戦略有機野菜や、農薬・化学肥料を大幅に減らした特別栽培農産物のネット販売を手がけるオイシックス・ラ・大地。21年前に20代で創business.nikkei.com
今朝、たまたまこちらの記事を拝読した。とても学びが多く、テンションが上がる内容だった。多くの人が陥りがちな間違いを指摘し、ご自身の経験を元に方向性を示されていた。是非一度、目を通して欲しい。
この記事のタイトルにもある「好きなことより得意なこと」という言葉が気になった。最近の流行りとは違う事を伝えている。好きと得意の違いも曖昧な部分もある。この記事では、こう伝えている。
(好きかどうかは別として)普通にやっているつもりなのに、周りよりはるかにうまくいっているなっていう人のほうが多い。でも、それに気づいていないとその仕事を好きになれないんです。それに気づくと、周りよりうまくいくのでだんだんと好きになる。我慢できないほど好きなことがあると明確でなければ、得意なことを見つけるほうが20代においては超重要ですね。
これは正しくその通りだと感じた。前職のコンサルタントの時代から、自分が当たり前にこなしている事で、何故か周囲から「ありがとう」と感謝されることが、あなたの長所だと伝えていた。長所を徹底的に伸ばすことが企業でも個人にとっても大切という教えがあるコンサル会社だったので、それを自分なりの解釈で伝えていた。
好きというのは自分目線の言葉である。自分の感情で好き・嫌いを判断しており、それが周囲にどの様な影響を与えるかは考えていない。反対に得意というのは、記事の定義では「普通にやっているつもりなのに、周りよりはるかにうまくいっている」こととある。これは周囲と比較してパフォーマンスが高い状態を示しており、自分目線ではない。
先ほどの長所にしても、自分目線で自分の長所を決定しようと考える人がいた。これは間違うことが多い。何故なら多くの場合、自分の長所=好きな領域を知らず知らずのうちに選んでいるからだ。自分目線ではなく、感謝目線で自分を見つめ直してみると、意外な長所に出会うことがある。実は、そのことに気づく事で、ツキのある仕事を掴むことができるようになる。
経営における”好き”と”得意”
経営においても、こうした事は頻繁に発生する。社長がやりたいと考えていることと違うのに、意外なお客様から信頼を得て売り上げが上がる状態というのがある。会社としては売り上げが上がっているので嬉しいのだが、社長がやりたいこととは違っている。だから今一つスッキリせず、力が入らない。そんなことがある。
これは実は危険信号である。このままの状態だと、社長自身のツキを落としてしまい、経営にも影響が出る可能性がある。人には使命がある。読んで字の通り”命の使い方”である。人には個性があり、その人しか持っていない独特の強みがある。それが色濃く出ているのが経営者という人の特性だ。社長になる人というのは、「社長にしかなれなかった人」ばかりだ。他の仕事に就けないから社長をやっているのだ。これは悪い意味ではなく、それだけ個性が強いということだ。
使命を全うするためには、自分の命の使い方に気づく必要がある。それに気づく近道が、長所に気づくことになる。起業したら、自分がやりたい事だけでは生きていけない瞬間がある。社長自身が持っている能力の全てを活かして、全方位的な対応で頑張るタイミングがある。それは起業当初に描いた理想的な自分では無いケースも多い。ただ、死に物狂いで頑張った先に残っていくものは、社長自身が最も得意で、長所を活かした周囲に感謝されることになる。結果的には、その最後に残った成長領域に焦点を当てて、そこを思い切って伸ばす事で、会社は成長することになる。
経営における”好きを仕事に”の正しい順番
社長という職業は、世の中で一番成長できる仕事だ。それは命をかけて会社を立ち上げ、全ての力を使って事業を営む中で、自分の長所に気づけるからである。世の中には、ごく稀に自分の好きと得意が偶然一致している人が存在する。そうした人が成功者となり、メディアに露出することで勘違いが発生する。”好きを仕事にすると成功する”。これは合っているようで、実は間違っていることが多い。
正確には、”得意を仕事にして、その仕事を好きになる”。まずは自分の長所を知ることが先決である。社長にとっては、自分の能力を活かす事で、どのお客様に一番喜んでいただけるのか。それを発見することである。その発見の過程では、好きや嫌いの感情的な視点は一切考慮してはいけない。冷静に、最もお客様から評価されている事は何かを見極めていく。なぜか売り上げが上がる。なぜか粗利が高い。なぜか商談期間が短い。意識していないが、その領域だけが成長する。
それが社長にとっての長所であり、得意なことである。それが分かったら、とにかくその領域に絞って、その仕事を好きになる。大切なことは、どんな仕事で勝つかではなく、社長自身の命の使い方を全うすることにある。社長が持っている能力を活かして、世の中に貢献すること。それが使命の本質なので、どんな仕事で。。。という事にこだわっていると、本来の能力も失われてしまう。
長所や得意なことというのは、自分では決めることができない。誰かを通じて発見できるものである。だからこそ、たくさんの経験をして、自分の何が評価されるのかを発見しなければいけない。長所を発見できていない時に、自分の理想にこだわり過ぎてはいけない。それは、単に好きを仕事にしようとしている事である。
社長自身の長所を発見しよう
思ったように会社が成長できないという場合、市場環境や商品・サービスの品質など、その原因は様々に考えることができる。しかし、本質的には社長自身が”好き”を優先して経営をしているケースも多い。仕事があるからやっているが、本当は別の領域がやりたい。。など、長所が分かっているのに、好きを優先してツキを手放していることがある。
起業というリスクを取って命をかけて経営をしているので、理想を追いかけたいという気持ちは理解できる。しかし、人には持って生まれた才能や能力がある。それを活かして貢献することが使命だとしたら、まずは好き・嫌いの感情ではなく、自分を評価してくれるお客様と真正面から向き合うことが大切である。長所を発見し、その事に感謝をして、目の前の仕事を好きになる。そうする事で、結果的に”好きを仕事に”経営ができる様になる。
得意な領域を探すこと。自分が頑張っていないのに、何故か感謝される領域を発見すること。それが発見できたら、とにかくその領域に集中してみること。集中してお客様からの感謝が増えるのであれば、それが社長にとっての使命である可能性が高い。その事実を受け止めて、その仕事を好きになっていくこと。幸せな経営の形というのは社長によって描く姿は違っていると思う。ただ、使命を全うする経営というのは、そうした順番で実現できる。少しだけ自分の会社を振り返ってみて欲しい。社長自身が自分の長所を活かせているだろうか?得意を否定していないだろうか?成長の種は、いつも社長の中にある。